日和高原ミルクジャム~開発秘話

ミルクジャム開発秘話

それは、日和高原から始まった夢

石見高原特選牛乳現在の「石見高原特選牛乳」は、世界遺産石見銀山で有名な島根県大田市にある三瓶山(さんべさん)から邑南町の瑞穂地域、日和地域で生産された生乳で製造されています。「石見高原特選牛乳」のルーツは、日和地域で生産された生乳だけで製造された「日和高原牛乳」でした。

今から約30年前、当時のグリコ協同乳業が全国の良質な産地から高原牛乳を出そうと声をかけたうちの一つが日和高原でした。

栄光と消滅

私たちの地域の諸先輩、その頃に現役だった親、祖父母の世代の酪農家は、田舎から全国的な発信ができる商品づくりに燃え、その厳しい基準(無脂乳固形分、乳脂肪分、細菌数、細胞数)を達成するために日々挑戦と研究を繰り返しました。

「30年近くも前に達成した基準が現在でも通用する」といえば、情報も技術も機械も少なかった当時、どれだけ大変だったことか容易に想像できます。そして、今のように情報が瞬時に届き、簡単に手に入る時代ではない当時に、田舎から全国区の名前となることの誇りは、本当に「夢」のような話だったことでしょう。

その夢を追いかけ、ついに「日和高原牛乳」の製造を実現した父親や先輩の背中を見て育ったのが、日和で牧場を営む坂根牧場の坂根さんをはじめとする日和地域の人々です。

グリコの厳しい基準を達成し商品化された「日和高原牛乳」は、地域の誇りとして、愛されました。

時がたち、グリコ乳業の方針により、現在では邑智郡の生乳を使った「石見高原特選牛乳」として販売されることになり、「日和高原牛乳」の名前は消えてしまいました。

 

地元の誇りを未来につなぐピース

牛乳平成23年(2011年)、邑南町は、「A級グルメ」によるまちづくりを掲げ、ここでしか味わえない食や体験をブランド化する地域活性化を進めています。この流れの中で様々なピースが集まり、再び日和高原生乳を活用した商品づくりの道筋ができました。

・A級グルメの発信による邑南町のブランド価値向上、販路開拓

・地域の誇り(伝統、食文化)を残したいという思いの強まり

・広島酔心調理製菓専門学校との協定

・東京農業大学応用生物科学部醸造科学科前橋准教授の協力

・日和高原で牧場を営む坂根牧場の協力

・自然放牧牛乳で有名な地元のシックス・プロデュースの協力

・食の学校、耕すシェフの取り組みによるレシピ、人員の協力

始まりは冗談

製造過程話のはじまりは、邑南町と協定を結んでいる酔心調理製菓専門学校からの話でした。近年バター不足の話がよくでますが、協定当時もバター不足で、製菓の授業で難儀をしていると校長先生が話しておられました。「協定よりもバターをもらえないかな」そんな話から、「邑南町には生乳はたくさんあるから大丈夫だろう」と調べたところ、バターは、生乳の5%の成分しか使用せず、95%が低脂肪乳となることがわかりました。低脂肪乳は、牛乳よりも価格が安いため、5%のバターを買ってもらったとしても、余った95%の低脂肪乳の有効活用が見出せなかったため、一旦この話は流れてしまいました。

その頃、邑南町観光協会が東京農大の前橋准教授と発酵の商品開発の話を進めており、「発酵させたミルクジャムにしたら面白いのでは」とヒントが出てきます。特産品としても付加価値をつけた商品としても面白く、「これは・・いけるかも!!」。

この話を校長先生に伝えたところ、「それは面白い」という話に。しかし、観光協会に装置を購入するお金はありません。「ならば、その装置のお金をうちが見ましょう!」と校長先生。

こうして、観光協会は、地元の生乳を仕入れ、バターを作って酔心調理製菓専門学校に納品し、残った低脂肪乳を購入していただいた装置で製造し、それを販売することで観光協会の資金にするという「産官学の連携による地域創生」の道筋が立ちました。


※発酵ミルクジャムは、開発試作を繰り返したところ、製造工程が非常にかかり、販売単価が高くなりすぎたため商品化には至りませんでした。

 

道は山あり、谷あり

邑南町道筋ができたので、県に許可申請の相談にいったところ、バター向けの生乳に対しては酪農家に補助金がでるため、膨大な申請書が必要だということがわかりました。更に、バター向け生乳の仕入れには品質のチェック、衛生管理等の問題があるため、中国地方の指定生乳生産者団体である中国生乳販連(中販連)に相談しました。

日本のバターの大部分は北海道で製造されており、補助金の申請や酪農家への分配作業にも慣れていますが・・ここは邑南町。

県も町も生産者も中販連でも特産品のバターを補助金の対象とする事例がありません。しかも、申請の手続きで大変で、その後の補助金や地域特産品としての付加価値のあり方も継続して事務手続きが必要という煩雑さ。また、対象者がたくさんの酪農家ではなく、日和という狭い地域に対してという割に合わないことだらけでした。

そして、補助金といっても本当にわずかな金額で、牧場側からしても事務手続きが出るだけ煩わしく、また、バターとミルクジャムの原料提供という少量取引のため新規に始めるには割に合わないものでした。

 

夢は叶えるもの

シックスプロデュース割にあわない話。しかし、再び「日和高原牛乳」の名を冠にできるならと農家さんは協力をしてくださいました。

かつて地域の誇りであった「日和高原牛乳」の名が消えたことで、酪農家のモチベーションは下がり、子供を後継者にさせたくないとなっているほどでした。この流れを変えなければ、地域の酪農の未来はありません。

また、生乳を販売する中販連は、通常より少し高く買い取ることで地域のブランド牛乳を守り、付加価値商品を作るという未来を支援してくださいました。

さらに、製造にあたって、保健所の衛生基準が厳しかった点は、地元の自然放牧牛乳と加工品を製造するシックス・プロデュースの協力によってクリアすることができました。

 

再び全国へ

日和高原ミルクジャム全国に誇る品質を持った日和高原牛乳。その過去の誇りが、現在のA級グルメによる6次産業化の取り組みを通して再び表舞台に立つチャンスが訪れました。

過去の先輩たちが目指し、成し遂げた夢を、ミルクジャムという形に変え、再び成し遂げ、未来の子どもたちへつなげていく。そんな地域の思いがつまったミルクジャムです。

 

 

邑南町ってどんなところ

邑南町(おおなんちょう)は、島根県の中部に位置し、農業を基幹産業とする人口9,868人(令和5年3月末)、県内一の面積(419.3㎢)を誇る町です。古くからたたら製鉄が盛んな地域で、人々は広大な山を切り拓き、豊かな自然とともに暮らしてきました。 高原地帯にあることと水質のよさから、豊かな食材と食文化が育まれ、人々が営んできた伝統文化も現代に受け継がれています。

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