邑南町は、中国山地の真ん中に位置し、四方を山に囲まれ、川に沿って人々が暮らす集落が点在しています。
そんな邑南町の里山は、季節ごとに、いろいろな表情を見せてくれます。
山笑う季節、春。
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雪解けが進み、里山に暖かい日が差し始めると、野山には山菜が芽吹きます。
ゼンマイ、ワラビ、タラの芽など春の恵みは、少し苦みがあります。丁寧に灰などを混ぜて煮込んであくを取ります。
しばらくするとタケノコが顔を出します。野山にはイノシシが住んでいて、タケノコは彼らも大好物。
早めに見つけないとありつけません。
タケノコの一番先の柔らかい部分はスライスして刺身みたいに食べると、爽やかな香りと歯ごたえがたまりません。
5月になると一斉に田植えが始まります。高原の邑南町のお米はおいしいと評判です。
朝晩の寒暖差と豊かな森から流れ出る水がうまさの元です。寒暖差で、朝には盆地を霧が覆います。
山頂から眺める雲海は、私たちが自然の中にいきていることを実感させてくれます。
山滴る季節、夏。
山は新緑に代わり、石州瓦を載せた家並みの「赤」のコントラストが美しい季節です。
川にはアユが遡上します。
6月1日からアユが解禁になると、釣り客で邑南町内の川は賑わいます。
アユは塩焼きが最高ですが、内臓と一緒に刻んで塩で漬け込む「うるか」は、お酒に合います。
それぞれの家の畑には、キュウリ、なす、ピーマンが実り始めます。
実りすぎると野菜は、ご近所でお裾分けされます。
どの家にもキュウリやなすやピーマンがあふれます。
なすは煮浸し、キュウリは浅漬け、ピーマンはきんぴら。
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山装う季節、秋。
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9月には金色に色づいた田んぼで稲刈りが行われます。
夏の間、畦の草刈りをして、水の調節をしながら大切に育てます。
新米の季節は、みんな、おいしいご飯を食べて笑顔になります。
酒米も作られていて、町内に残る三つの酒蔵で、仕込みの季節を待ちます。
アユは下流に向かって下り始めます。
投網や建て網といった漁法で、大きいものは30㎝を超えるまで成長します。おなかには卵を抱えています。この卵は焼いても、煮てもおいしくいただけます。
家の周りには、柿、柚子、イチジクなどが実ります。
これは猿と競争です。
渋柿は皮をむいて軒下に干しておきます。風通しがおいしくなるこつだと、隣のおばあさんが教えてくれました。
秋が深まると山は真っ赤に化粧します。この頃、再び雲海の季節がやってきます。
次第に朝晩の冷え込みがきつくなってきます。
来年の田植えに向けて、田んぼをトラクターで起こします。
冬を迎える準備が始まります。
山眠る季節、冬。
邑南町では冬になる前に、畑で育てた白菜を漬け物にします。
白菜は、初冬に霜が降りると甘くなります。
霜が降りた後の白菜を丁寧に洗って塩で漬けた白菜は、冬の間、食卓の欠かせない食材になります。
雪は最近は減りましたが、どかんと降ると60㎝を超えることもあります。
車での移動は大変ですが、雪道になれた人たちは、平気です。
この雪が、森につもり、来年の田んぼを潤す水になることを知っているからです。
最近、井戸が涸れることが多くなったといいます。
冬に雪が降らなくなり、山が蓄える水が減っているのかもしれません。オオサンショウウオは、冷たい水の中で、じっと春が来るのを待っています。
邑南町は、こんな町です。一言では言い尽くせないところです。
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